「1960年代の1ポンドや1ドルの貨幣価値は、現在の貨幣価値にすると幾らくらいになりますか? 単位は1…じゃなく100ポンドやドルでも結構です。」
当時、
1ポンド=1008円
1ドル=360円
の固定相場制でした。
また、当時の消費者物価指数は現在の4~5分の1。
したがって、
当時の1ポンド=現在の4000~5000円程度
当時の1ドル=現在の1500~1800円程度
でしょうか。
現在、この時計の市場価値が安くても100万円はします。当時の定価を現在の貨幣価値に換算し直すと17万円が5~6倍くらいになっているということです。もちろん大事に使い続けていることが前提ですが。こういう下世話な話題は好きじゃないけど、興味ある人多そうなので。
では、現在の新しい時計が数十年後、同様に価値が上がってるんでしょうか。
現在、ロレックスでデイトナやサブマリーナなど一部の人気機種で品薄の新品が定価よりも高く売られていますが、これは異常な状態だと思っています。一過性のブームだとしても既に5年はこの状況は続いています。
しかしこれも希な例です。
消費者の動向をビックデーターで先読みするような現在のメーカーのブランディングやマーケティングも時計の価値を上げる必要な要素です。
ただし、これはアンティークの市場に当てはめると一過性で生産性の低い戦略と見なされ評価の対象になりにくいんです。
メーカーが過去の商品を価値付けるためには、常に過去をアーカイブしつつもイノベイターであり続ける他ないと思います。
保守に走らない、言うのは簡単で最も難しい企業精神ですよね。自戒の念が…
昔の時計作りと現在の大量生産向けな時計作りでは、メーカーの姿勢を含め根本が違います。
古い時計はメーカーではない外部の時計技師の手でどうにか直せます。
現行品は、特殊な素材や手仕事では作れない最新技術を駆使した部品で構成されてるのでメーカーの部品供給がなければ直せない時計が多いんです。
しかも、部品の供給を外部に閉ざしてメーカー修理のアフターサービスを掲げユーザーを囲い込もうというメーカー戦略が増えています。
万が一、部品の供給が無いメーカーが倒産廃業してしまうと、その時点で「直せない時計」になってしまいます。
価値を上げていくには、
「直せる」という安心感
物が作られた理由と背景がはっきりと可視化されいること
メーカーも生き残り進化し続けていける期待感
最低限この3つの要素を持ったものでないと価値が安定しませんし、場合によっては希少性が相まって価値を上げていくんです。
いつか直せなくなってしまう不安要素を抱えた現行品には、価値を上げる3つの要素が足りないと感じています。
こういう仕事をしていると「良い時計」の定義を考えさせられます。
フィリップ・デュフォーという有名な独立時計技師が、
「良い時計というのは、(私が作った時計を)私じゃなくても直せる時計のことさ。」
控えめに言って同感です。1970年以前、クォーツショック以前に作られた時計は時計技師を名乗る者なら直せる作りをしてるものが多いんです。
A&Oで販売する時計に限っては、時計技師である僕を含めて、時計技師として最低限の技術を有する者が直せる時計を取り扱いの範疇または基準にしています。お持ち込み修理は可能であれば範囲外でも対応しています。
今から時計を買いたいと思っている方は、流行に左右されない時計選びをどうかされてください。
1960’s Omega Constellation Pie Pan Dial 18KYG